Qスズメバチの女王蜂の一生は順風満帆なのですか?
いいえ、大変厳しいものです。多くの女王蜂は働き蜂を 1 匹も育てられないまま力尽きます。私たちが見守ってきた巣も、すべて途中で女王蜂がいなくなりました。
ほとんどの女王蜂は巣を作り上げられない
秋、軒下に人の頭ほどもある大きな巣を見たことがある方は多いと思います。
住宅地でよく見かけるキイロスズメバチは、秋には働き蜂が 1,000 匹、巣の直径が 50 cm を越えることも珍しくありません。
軒下や屋根裏に巣を作るため、被害の相談がいちばん多いスズメバチとも言われています。
その大きな巣も、春の始まりは女王蜂がたった 1 匹です。
その女王蜂が生まれるのは、前の年の秋です。キイロスズメバチの大きな巣では、秋に数百匹の新しい女王蜂が育つと言われています。
それでも翌年の巣がその分だけ増えることはなく、巣を作り上げられるのはほんのわずかです。
NHK のドキュメンタリー番組が追いかけたスズメバチの巣も、しばらくすると壊れて女王蜂もいなくなっていました。
長野県の蜂天国では、駆除を頼まれたスズメバチの巣を集め、つなぎ合わせて巨大なアートにして展示しています。私たちが訪ねたときも、女王蜂 1 匹の時期の巣は途中でいなくなるものが多いと聞きました。
その女王蜂に生まれることは、幸運ではありません。
母親の巣からは、何ひとつ受け継げない
女王蜂は、生まれ育った巣から何も持ち出せません。母親の女王が作り上げた大きな巣も、大勢の働き蜂も、冬を越せずに秋の終わりには失われています。
春に目を覚ました女王蜂は、巣の材料を集め、巣を作り、卵を産み、ほかの虫を狩って幼虫のエサにするところまで、すべて 1 匹でこなします。
餌や材料を集めに出ているあいだ、巣には誰も残っていません。女王蜂が戻らなければ、その巣はそこで終わりです。
同じ巣で生まれた姉妹の女王蜂も、そう遠くない場所で巣を作ります。助け合う相手ではなく、近くで同じ獲物を探す相手になります。
最初の働き蜂が羽化するまでのおよそ 1 ヶ月が、いちばん危うい時期です。
この時期は、女王蜂が死んで巣が放棄される割合が極めて高いと言われています。
見守った巣は、すべて途中で消えた
私たちは、自宅などに作られたスズメバチの巣をそのまま残して、巣作りの様子を見守ってきました。
ある年、キイロスズメバチの巣が 2 つできていました。姉妹の女王蜂が近くで巣を作るというのは、こういうことなのだと思います。
1 つは、幼虫が育つ前に女王蜂が戻らなくなりました。
もう 1 つは働き蜂が 5 匹ほど羽化しました。それでも女王蜂は、まだ外に出て餌を集め続けなければなりません。
ところがこの巣は増えるどころか数が減り、最後は蜂が 1 匹もいなくなりました。
別の年には、家の軒下にコガタスズメバチが巣を作りました。この種類は、女王蜂 1 匹の時期に、とっくりを逆さにしたような形の巣を作ります。特徴的な形なのでラッキーと思い、ほぼ毎日撮影していました。
ところが、下に伸びる筒の部分が数センチ伸びたところで、巣は大きくなるのをやめてしまいました。
後日のぞいてみると、中に蜂は残っていませんでした。巣の材料や幼虫の餌を集めに出たまま、戻らなかったのでしょう。
働き蜂が 10 匹になれば見込みがある
働き蜂が 10 匹ほどになった巣は、その危うい 1 ヶ月を乗り越えたあとです。そこから育っていく見込みがあります。
働き蜂が代わりに餌を集めに出るようになり、女王蜂が巣を離れる回数も少しずつ減っていきます。
私たちも、スズメバチの巣を移して観察することがあります。持ち帰るのは、このくらいの大きさの巣が多いです。まだ小さくて持ち帰りやすいからです。
大きくなるほど、幼虫とサナギが狙われる
巣が大きくなると、今度は外に敵ができます。
巣の中には、小部屋が並んだ円盤が、何段も重なっています。ひとつひとつの小部屋で、幼虫やサナギが育ちます。
働き蜂が増えるほど、そこはぎっしり詰まっていきます。
ほかの生きものから見れば、餌がまとまって置いてある場所です。
スズメバチの天敵というと、クマを思い浮かべる方が多いと思います。ただ、巣を狙うものはほかにもいます。
ハチクマという鷹のなかまは、巣を壊し、この円盤をヒナの餌に持ち帰ります。
秋、オオスズメバチが集団で押し入る
秋になると、オオスズメバチがほかのスズメバチの巣に集団で押し入ります。中の幼虫とサナギを引き抜いて、自分の巣へ運んでいきます。
巣ごと集団で襲うのは、スズメバチのなかでオオスズメバチだけだと言われています。
狙われやすいのは、軒下のような開けた場所に大きな巣を作るキイロスズメバチだと言われています。襲われた巣は外側の皮に大きな穴が開き、2 週間ほどで働き蜂の姿が消えていた、という報告があります。
ガの幼虫が内側から食べていく
外から襲われるだけではありません。巣の中に入り込むものもいます。
ガのなかまが、夜のうちに巣へ卵を産みつけると言われています。かえった幼虫は内部にもぐり込み、円盤をかじっていきます。蜂の幼虫やサナギも食べていると言われています。
大きく育ったコガタスズメバチの巣を解体したときは、円盤がぼろぼろになっていて、芋虫が 100 匹ほど出てきました。蜂が残っていたのは、フタの閉じた 1 部屋だけでした。
秋になっても小さいままの巣や、蜂がいなくなってしまった巣を、私たちは何度も見てきました。ただし、巣が育たない原因がガだけとは限りません。
次の女王を送り出せた群れだけが残る
こうした危機をくぐり抜けた巣だけが、秋に新しい女王蜂とオスを育てます。
オスは巣のために働きません。針がなく、獲物を狩ることもありません。仕事は、次の代の女王蜂と交尾することだけです。
新しい女王蜂は巣の外で交尾を済ませ、朽ち木や土の中にもぐって冬を越します。
そして春、たった 1 匹で目を覚まします。自分の子を次の世代に残せるのは、ここまでたどり着いた巣から巣立った女王蜂だけです。
スズメバチの女王蜂の命は儚い
春に飛んでいる大きなスズメバチは、冬を越した女王蜂です。見かけても、私たちは怖いとは思わなくなりました。この蜂も途中で力尽きてしまうのだろうな、できれば長く頑張ってほしい、という気持ちで見ています。
夏から秋には、頼まれてスズメバチの巣を駆除することもあります。ここまで残れた巣がほんのわずかだと知ってからは、申し訳ない気持ちになります。
昆虫のなかでいちばん強いとも言われるスズメバチですが、その女王蜂の命は、とても儚いものです。
関連情報
スズメバチの対策
スズメバチの中でも、キイロスズメバチはニホンミツバチの巣箱に頻繁にやってきます。オオスズメバチは世界最大のスズメバチで、ニホンミツバチの群れを全滅させることもあります。
